本メルマガでは通常、自動車関連規格などの最新動向を中心とした情報をお伝えしておりますが、今回は基本に立ち返ってAutomotive SPICEに定義されるSUP.1 品質保証プロセスに着目し、その特徴と意義についておさらいしてみたいと思います。
Automotive SPICEにおける品質保証プロセス SUP.1の特徴の一つは、品質に関するチェックを「製品開発の最中、継続的に」実施するという点です。製品が出来上がってからその出来栄えをチェックする、いわゆる出荷検査のような活動とは異なる思想に基づいています。この特徴的な考え方は、Automotive SPICEがもともとソフトウェアを含む製品の開発に焦点を絞って策定されていることに由来します。
ソフトウェアを含まない、比較的シンプルな機械製品の場合、出来上がった製品をチェック、評価することでその品質を担保することも可能です。しかし、ソフトウェアを含む製品は一般的に、純粋な機械製品に比べて機能や構造(論理構造)の面ではるかに複雑であり、ソフトウェアが出来上がってからその品質を十分に評価することは現実的ではありません。もちろん、出来上がったソフトウェアやシステムに対しては一般的に利害関係者要求のテストや各組織が定めた出荷前の検査などが実施されますが、それもソフトウェア内に不具合が存在しないことの保証としては不十分です。ソフトウェアを含む製品の品質を保証するには、出来上がった製品そのものだけでなく製品の開発プロセスに着目し、「適切な方法で開発が行われているか」をタイムリーに確認していくことが最も効果的な手法と考えられているのです。
上記のような、「プロセスの品質が製品の品質を大きく左右する」という考え方は、ソフトウェアに限った話ではありません。ハードウェア、メカ、システムといった領域においても、開発製品が複雑になり、製品開発に関わる人の数が増えるほど、この傾向は顕著になります。ごく少人数が開発を担当するような小規模の機械製品などを考えた場合でも、ほとんどの製品がベース機種からの変更開発となる昨今の状況では、間接的に多くの人が製品開発に関わることとなります。こうした状況ではやはり、開発方法の不適切さからくるミスコミュニケーションや分析漏れなどが、品質問題の原因となるケースが見られます。
当初こそ車載ソフトウェアの品質に焦点をあてて策定されたAutomotive SPICEですが、近年はハードウェア、メカニカルSPICEのPAMも公開され、欧州ではOEMが製品の全領域についてSPICEに基づくプロセス改善を要求するケースも増えています。Automotive SPICEに基づく品質保証プロセスの改善を実施する際はぜひ、このプロセスの意図を正しく捉えて仕組みづくりを行ってください。
弊社では、Automotive SPICEをはじめ、ハードウェアSPICE、メカニカルSPICE、サイバーセキュリティSPICEのトレーニングも提供しております。ご興味をお持ちの方はぜひ、弊社HPよりトレーニングスケジュールをご確認いただくか、弊社の窓口までお気軽にご連絡ください。
2022/9/13 大野 貴正