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Agile SPICEとAutomotive SPICEの関係性の考察

弊社ホームページでもすでにご連絡しておりますが、9月1日に弊社が翻訳を担当しましたAgile SPICE PRM/PAM v1.2の日本語公式版がintacsより公開されました。皆様の改善活動の参考としてぜひご活用ください。また、弊社では公開されたAgile SPICE PRM/PAM v1.2の内容を理解しアジャイル導入にご活用いただくための「Agile SPICE プロセス基礎トレーニング」の第1回目を9月4日に開催し、多くの方にご参加頂きました。今回のメルマガでは、トレーニング中に受講者の方から頂いた質問をご紹介しAgile SPICEとAutomotive SPICEの関係性について考察してみたいと思います。また、Agile SPICE PRM/PAM v1.2の日本語版が公開されるまでの準備期間中にv1.3の英語版が公開されましたので、v1.2とv1.3の差分についても簡単にご紹介します。

まず、トレーニング中に頂いたご質問の内容は「アジャイル開発ではチームごとに異なる基準に基づいてプロダクトバックログアイテムの相対見積を行うが、異なる基準を用いていてもAutomotive SPICEのレベル3を達成することは可能か?」というものでした。ご質問に対しては「例えばGP3.1.5およびGP3.2.6の観点で考えると、見積り手法自体はプラニングポーカーを使用することで標準化しておき、プロセスの有効性は正規化可能な見積精度を尺度とすることで、見積時に基準として使用するプロダクトバックログのサイズがチーム間で異なっていても複数のアジャイルプロジェクト間でプロセスの有効性の比較が可能となります」と回答させて頂きました。Agile SPICE PRM/PAMではAutomotive SPICEの能力レベル1に関する部分のみが説明されており、能力レベル2以上についてはAutomotive SPICEの共通プラクティス(GP)に準ずるとだけ記載されています。今回、トレーニング中での質疑応答を通して、Agile SPICE PRM/PAMでは触れられていないアジャイル開発とAutomotive SPICE能力レベル3の要求事項との関係性を改めて考えるきっかけとして講師としても大変有意義な機会となりました。

続いて、Agile SPICE PRM/PAM v1.2とv1.3の違いについてです。結論からお伝えすると今回はマイナーバージョンアップのため、内容に大きな変化はありません。これは、4月から欧州でスタートしたAgile SPICE公式トレーニング受講者からの指摘を受けての誤記修正がバージョンアップの主な理由のためと推測されます。しかし、2点ほど着目すべき変化点がありますので、それらについてご紹介したいと思います。

1つ目は、AGL.1「アジャイルワークマネジメント」プロセスの基本プラクティス「障害の管理(BP10)」に関する備考の詳細化です。v1.2では単に「BP10はSUP.9およびMAN.5と密接に関連している。」とされていました。一方、v1.3では「一般的に、障害は問題の一種であり問題管理戦略に従って取り扱われる(SUP.9を参照)。品質目標に関連する障害はSUP.1の中で識別される。潜在的な障害はMAN.5の中でリスクとして扱われる。」という説明に変更されています。これにより、AGL.1で管理する障害はAutomotive SPICEで言うところの問題、不適合事項、リスクのすべてを含むより広範な概念であることが明確になりました。

2つ目は、付録D「Agile SPICEとガバナンスに関する考察」の新規追加です。付録Dでは、プロセス改善や組織改革を行う際の経営陣および上級管理職からの支援と資金提供の重要性が説明されています。それらはAutomotive SPICEの導入においても重要になりますが、大きな変化を伴うアジャイル開発の導入時には、より重要になると述べられています。また、アジャイルプラクティスの改善またはアジャイルへの移行に際し考慮すべき具体的な6つの側面が説明されていますので、興味のある方はぜひAgile SPICE PRM/PAM v1.3をご一読ください。

最後になりますが、弊社ではAgile SPICE PRM/PAM v1.3の翻訳作業を進めています。それにあわせて、12月13日に予定されている次回のAgile SPICEプロセス基礎トレーニングでは、トレーニング資料をv1.2準拠からv1.3準拠へアップデートする予定です。Agile SPICE PRM/PAMの内容を把握したい、もしくは自動車製品開発におけるアジャイル実践のポイントを知りたい方はぜひ参加をご検討ください。

2023/9/27 蛸島 昭之