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業界を超えたアセスメントスキルの共通点:
SPICEアセッサーとミシュランインスペクター

 先日、同僚の一人がWeb上で紹介されていたミシュランガイドのインスペクターに関する紹介記事を見つけ、インスペクターのスキルとAutomotive SPICEアセッサーのスキルの共通点に関して、社内で話題となりましたので、少しご紹介いたします。

 まず、簡単にミシュランガイドとインスペクターの位置づけについて触れておきたいと思います。
ミシュランガイドは、元々は車でドライブに行く方々に向けて作られたガイドブックでしたが、いつしか美食レストランガイドブックとして現在に至っています。
このガイドでは、掲載されたお店の評価が星の数で評価されており、この評価をインスペクターが担っています。
つまり、Automotive SPICEに当てはめると、インスペクターはアセッサーに該当します。

 インスペクターは世界中のレストランを匿名で訪れ、客観的で公正なフィードバックを提供しており、その評価対象となる個々のレストランがガイドへの掲載を目指すことで、レストラン業界全体の品質向上を促進していると言われています。
さらに、ミシュランのインスペクターは、同じレストランに対して翌年以降も継続的に評価を続けます。
つまり、三ツ星を獲得できても、努力を怠っていれば翌年は三ツ星を失うということになります。

 Automotive SPICEにおいても、能力レベル3の達成を瞬間的な目標として捉えてしまい、その後の維持ができていないケースを目にすることもありますが、Automotive SPICEアセッサーは、ミシュランのインスペクターと同様に継続的なアセスメントによってプロジェクト/組織の健全性を維持する重要な役割を担っていると言えるでしょう。

 さて、ここからは本題のスキルに目を向けていきたいと思います。
アセッサー・アカデミーが体系化しているアセッサーに必要なスキル項目を一般化し、インスペクターのスキルに当てはめてみると、以下のような共通点が見えてきます。

1.評価基準に対する知識
インスペクターの評価基準は、食材の質、料理技術、独創性、コストパフォーマンス、料理の一貫性の5つです。正確な評価を行うためには、これらの評価基準に対する十分な知識を持っていることが大前提となります。
Automotive SPICEのアセスメントにおいて、PAMに対する十分な知識が大前提となることと同様です。

2.専門領域に対する知識
インスペクターには、食に関する専門知識、味覚に関する技能、世界の食材、テロワール、食文化に関する幅広い知識を有していることが求められています。
食は時代と共に多様化し続けており、インスペクターには終わりのない専門知識の追求が求められます。
自動車分野でも、新しい技術や新しい開発手法など急速な変化が続いており、アセッサーには常に専門知識の追求が求められます。

3.評価能力および客観性、一貫性
インスペクターは、個人の好みを超えた客観的な評価を行うことで、信頼性の高い評価を実現しています。さらに、評価は一人のインスペクターのみで行われることはなく、複数のインスペクターによる合議制を採用することによって、客観的で一貫性のある評価を保証しています。
Automotive SPICEにおいても、アセスメントは二人以上のアセッサーによって行われることで、個人のバイアスを抑制することを狙っています。さらに、インタビュー後のコンソリデーションにおいて同様に合議(リードアセッサーが最終決定権を持つが、全会一致が原則)を行うことで、結果を保証しています。

4.フィードバック能力
インスペクターは世界中の食文化を理解し、多様な視点からフィードバックを提供します。
それは、単にレストランの客に向けた情報提供だけではなく、レストランに対する改善の機会を提供していることにもつながっています。
Automotive SPICEにおいても、アセスメント報告書は、その後のプロセス改善への重要なインプットであり、対象プロジェクト/組織をより良い方向へ導くヒントを与える能力がアセッサーには求められます。

 このように、ミシュランのインスペクターとAutomotive SPICEのアセッサーでは、対象とする業界は異なるものの多くの共通点を見出すことができます。このような共通点を持つ異業種の取り組みにおいては、自分たちがあまり目を向けていなかった新たな気づきが得られるものも多々あり、これらをうまく取り入れていくことでさらなるスキルアップにつながることもあるでしょう。

 今後も、このような異業種からの知見についてご紹介していきたいと思います。

2024/5/9 田渕 一成