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【アセッサー育成シリーズ #1】
なぜ今、組織にアセッサーが必要なのか?

車載システムの開発において、開発の品質を向上させるために欠かせないAutomotive SPICE(ASPICE)。しかし、そのアセスメントを適切に実施し、組織の成長に活かすためには、熟練したアセッサーの存在が不可欠です。

本シリーズでは、アセッサー育成の重要性と、その具体的な方法について解説していきます。第1回となる今回は、「なぜ今、組織にアセッサーが必要なのか?」というポイントをテーマに、現在の課題とその解決策を深掘りしていきます。

いま、あなたの組織には「本当に活躍できるアセッサー」がいますか?


近年、ASPICEの適用範囲が拡大し、プロセスの標準化と品質向上の重要性がますます高まっています。機能安全、サイバーセキュリティ、AI・機械学習などの分野にも適用が進み、開発プロセスにおける考慮点はかつてないほど拡大しています。

このような環境下で、開発プロセスの品質を維持・向上するために不可欠なのがASPICEアセスメントの実施ですが、多くの企業では以下のような課題を抱えています。

1.社内にアセッサーがいない、または経験が不足している
2.アセスメントの実施頻度が少なく、プロセス改善に活かせていない
3.アセスメントに必要なリソース(時間・コスト)が確保できていない

特に日本企業では、「一度ASPICEレベルを取得すれば十分」という誤解が広まり、海外の競合と比べてアセスメントの頻度が極端に少ないという問題があります。その結果、プロセス改善の速度も遅れ、長期的には開発競争力の低下につながるリスクを抱えています。

アセスメントの目的は「認証取得」ではない


多くの企業が「ASPICEの能力レベルを達成すること」を目標に掲げています。しかし、ASPICEは、そもそも認証制度ではありません。

アセスメントの本質的な目的は、プロセスの課題を明確にし、開発の品質を継続的に向上させることにあります。つまり、アセスメントは一度限りのイベントではなく、継続的に実施されるべきものなのです。

海外の企業では、ASPICEアセスメントを「プロセスのスナップショット」として捉え、定期的に実施しながら改善を繰り返す文化が根付いています。頻度の高い企業では年に2~3回のアセスメントを実施し、その都度改善計画を策定するケースも珍しくありません。これに対し、日本ではアセスメントの実施回数が少なく、改善サイクルが回りにくいという課題があります。

アセスメントがもたらすROIとは?


「アセスメントのために人員やコストを割くメリットはあるのか?」という声をよく耳にします。しかし、適切にアセスメントを行い、プロセス改善を着実に進めることで、以下のような効果が期待できます。

1.不具合の早期発見・削減
トラブル対応や市場クレームを大幅に減らすことで、結果的に開発コストを削減できます。

2.開発スピードの向上
標準化されたプロセスによって無駄が減り、リードタイムの短縮が可能です。

3.品質向上に伴うブランド力の強化
高い品質を武器に、海外OEMやサプライヤとの取引でも優位性を発揮しやすくなります。

つまり、アセスメント活動は「コスト」ではなく「投資」です。長期的な視点で見ると、開発品質と生産性の向上という形でリターンを得られます。

これからの時代に求められるアセッサーとは?


今後のASPICEアセスメントでは、単なる評価者ではなく、プロセス改善を主導できるアセッサーが求められます。そのためには、以下のようなスキルが必要です。

1.プロセス理解力
ASPICEのプロセスモデルを単に知っているだけでなく、その背景にある考え方や適用方法を理解し、評価結果をもとに改善策を提案できる力が求められます。

2.インタビュー力
アセスメントでは、開発チームから適切な情報を引き出すことが不可欠です。的確な質問を通じて真の課題を発見するスキルが必要になります。

3.分析力
プロセスデータを適切に分析し、問題点を定量的に評価できる能力が求められます。単なるチェックリストの確認ではなく、組織の特性に合わせた柔軟な評価ができることが重要です。

4.最新技術の知識
サイバーセキュリティ、機能安全、機械学習といった新しい技術領域の理解も、今後のアセッサーにとって不可欠です。

組織として今すべきこと ~導入・実践イメージを含めて~


アセスメント活動を強化し、ROIを最大化するために、今すぐ取り組めることをご紹介します。

1.経験豊富なアセッサーとの共同アセスメントを実施する
自社のプロジェクトを対象に、外部の熟練アセッサーとペアを組み、実際のチームを交えて模擬インタビューやドキュメントレビューを行います。都度フィードバックを受けながら実践を繰り返すことで実践的なノウハウを吸収できます。

2.体系的な学習プログラムを導入する
経験豊富な先輩アセッサーの背中を見るだけでは、効果的にスキルアップを行うことはできません。
効果的なスキルアップのためには、アセスメントに必要なスキルに基づいて体系化された学習プログラムによって、個々のスキルを磨いていくことも重要です。

3.AIを活用し、アセスメントの精度と効率を向上させる
急速な発展を遂げているAIモデルは、あらゆる業務において大きな変革をもたらしています。
当社のアセスメントツールAXIOMにおいても、音声入力による所見の自動作成、指標(BP、GP)の割り当て、所見間の矛盾のチェックや、改善策の提案など、AIによるサポートによって、アセスメントが従来よりも大幅に効率化されています。
このようなAI搭載ツールの活用は、アセスメントを実施する労力を抑えつつ有益なアウトプットをもたらすため、より多くのプロジェクトに対してアセスメントを実施できるようになります。
さらには、AIによる多様な示唆は、アセッサーに新たな気づきを与え、スキルアップにもつながります。

4.定期的な内部アセスメントを実施する
少なくとも半年に一度は内部アセスメントを行い、その結果を踏まえて改善策を立案・実行。1~2か月後のフォローアップで改善効果を検証し、必要に応じて再度調整を行う「小さなPDCA」を継続することで、現場がアセスメントを“当たり前”の活動として捉えるようになります。

まとめ ~次のアクションへ~


今後の自動車業界において、ASPICEアセスメントはますます重要になります。しかし、それを有効に活用するためには、組織内に高度なスキルを持ったアセッサーを育成することが不可欠です。ROIを意識しながら継続的にアセスメントに取り組むことで、開発品質と効率、そして競争力を同時に高めることができます。

「貴社には、プロセス改善を主導できるアセッサーがいますか?」

この問いに自信を持って「YES」と答えられる企業こそが、次世代の開発競争に勝ち残ることができるのです。

▼ 次回予告

次回のメルマガでは、「アセッサー育成プログラムの設計」や「組織内での育成体制づくり」をより具体的に解説していきます。いち早くアセッサー人材を確保し、社内に育てたいとお考えの方は、どうぞお見逃しなく。

▼ 詳しく相談したい方へ

「自社でもアセッサーを育成してみたい」「具体的なアセスメント導入の手順を知りたい」とお考えの方は、ぜひお気軽にご相談ください。貴社の状況に合わせた情報や事例をご紹介できます。

また、アセッサー育成に関するトレーニングラインアップの紹介セミナーを2月26日に開催いたしますので、アセッサー育成にご興味をお持ちの方はぜひご参加ください。

2025/2/5 田渕 一成