最近、”State of the art”という言葉が良く聞かれるようになりました。
ただ、この言葉が正しく使われていない、もしくは正しく理解されていない場合が見受けられます。
今回は、”State of the art”の持つ意味についてご紹介したいと思います。
”State of the art”を辞書などで調べると、直接的な意味として”最新技術”という説明が出てくると思います。安全の分野においては、最大限の努力によって実現し得る最良の技術や対策によって安全性を確保すべきという考え方があり、ここに”State of the art”という言葉が使われています。
つまり、「どこまで安全性を高めれば安全と言えるのでしょうか。」という問いに対する答えが”State of the art”であると言えます。
それでは、安全のためにはいくらコストがかかっても実現し得る最新の安全技術、手法を導入するべきなのでしょうか。”State of the art”をこのような意味で理解される方もいらっしゃいますが、この解釈は正しくありません。
安全や人の命に対する考え方や価値観は、全世界共通のものではないからです。残念ながら、経済的に豊かではない社会においては、安全そのものの価値が低く、安全よりも経済的な豊かさを求める現実があります。
安全の思想は、社会が成熟していく中で、経済的豊かさを手に入れた次の価値として形成されていったものであるとも言えますが、安全にどれだけの労力やコストをかけるべきであるかということは、その時点での社会の評価によって決まります。その社会の評価に基づいて様々な基準や規格、さらには規制や法令が作られ、安全の水準が維持されていきます。
この安全の水準としても”State of the art”という言葉が使われますが、これは守るべき最低ラインという意味で捉えるべきものです。
メーカーは、適切な価格を維持できる現実的な範囲における最大限の努力によって、製品の安全性を確保する責任を持つと同時に、ユーザーに対して製品の安全性と残留リスク(※)を説明する責任を持ちます。同様に、メーカーから開発を委託されたサプライヤーは、メーカーに対する説明が求められますし、メーカーはサプライヤーの開発結果も含めて製品の責任を持つこととなります。
製品の安全性と残留リスクを正当に主張するためには、体系的な安全管理が行われていることが前提となります。
一般的に、安全における責任には、実行責任、管理責任、説明責任の要素が含まれ、ISO 26262の中もこれらの考え方が反映されています。
ISO 26262が適用される車載システムの開発に当てはめると、実行責任とは、開発を行う側が負う責任であり、実施すべきことをやり遂げるというものです。管理責任は、実施すべきことを保証する責任です。もう一つの説明責任は、実施結果に安全上の問題がない、もしくはリスクが十分に低いことを伝える、さらには、残留リスクを伝える責任です。
また、「ISO 26262 が”State of the art”になった」という表現も聞かれるようになりましたが、ISO 26262は車載システムの安全性を主張するための基本的な体系であり、安全の責任を果たす上で極めて重要なアプローチであると言えます。
ISO 26262において、”State of the art”を「安全の責任を果たすために必要な最低ライン」という意味で捉え、安全を明確に主張していくべきではないでしょうか。
※残留リスク:リスク対応の後に残っているリスクを残留リスクと呼びます。
(2012年01月号メルマガ抜粋)
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