2019年2⽉12、13⽇に開催された第4回オートモーティブ・ソフトウェア・フロンティア2019(ASF2019)にて、「⾮機能要件に着⽬したシステムズエンジニアリング」と題して、モデルベースシステムズエンジニアリング(以下、MBSE)⼿法の導⼊時に得た経験をもとに、プロジェクトや製品開発の成功が⾒える形で評価できる⼿法を紹介しました。ご参考になりましたでしょうか?ASF2019の他セッションの中で、MBSE⼿法の⾃動運転システムへの適⽤事例も紹介されました。適⽤する過程で、システムアーキテクチャの決定には、さまざまな観点(例えば、安全性、信頼性、可⽤性、保守性など)からの検討、その観点に相応しいモデルを記述することが重要であると解説されました。本メルマガでは、MBSE⼿法の導⼊時の参考になるように、ツール視点で考慮すべき点を解説します。
システムズエンジニアリング⼿法は、顧客を含む複数の利害関係者や複数の専⾨分野が、相互に関わり、品質、コスト、納期、効率などの⽬標をトレードオフ分析し、バランス良く達成しながら、複数の構成要素を持つシステム/製品を 開発するアプローチです。複数の利害関係者が関わる機能要件、⾮機能要件、設計情報などは、⼀般的に⽂書で記述されます。MBSE⼿法は、⽂書の代わりに、抽象的な概念を表す「モデル」を活⽤します。MBSEと聞いて、「SysML(Systems Modeling Language:システムモデリング⾔語)または、SysML表記が可能なツールを使⽤するアプローチ」を想像する⽅が多いかと思います。これは、⼤きな誤解です。SysMLという⼿段選択の前に、開発プロセスの中で、何をどのような形で表現することで、複数の利害関係者が理解できる共通の⾔葉になるかを考えることが鍵になります。このためには、プロセスが明確に定義されていないと、決めることができません。プロセスの⽬的、⼊⼒、出⼒、活動、関与する利害関係者が明確になっていることで、各プロセスで必要なモデル化の⽬的、つまり、抽象度と観点が決まります。
モデルの表記⽅法からツール選択までの流れと合わせて、考慮すべき点に触れます。モデル化の⽬的が決まると、その⽬的を達成するための表記法(図、式、⾔語など)を選択します。あるプロセスの注⽬したい情報の抽象化に、SysMLが適している場合は、SysMLを選択してよいと思います。ただし、SysMLは、汎⽤的な⾔語なので、ライフサイクル全体に渡るモデル化には、適さないです。
仮にSysMLを選択した場合、次にSysMLをサポートしているツールを選びます。市場では、オープンソースから商⽤ライセンス化されている開発ツールが、利⽤可能です。モデルを活⽤するプロセスの前後につながっているプロセスで使⽤するツールとの連携が取れる、抽象化した情報の属性や付随情報も表記できる、エディタが使い易い、モデルのレビューがし易いなどの視点をツール選びで考慮します。例えば、製品要求やシステム要件定義の管理に使⽤しているツールとSysMLツール(製品アーキテクチャ設計と各ドメインアーキテクチャ設計)が、双⽅向でトレーサビリティが構築できるレベルでの連携が可能であれば、開発効率、品質担保の⾯で効果が出ます。
また、派⽣開発/変更開発による製品開発では、プラットフォームまたは、世代という概念で、ベースモデルに対する差分の開発を⾏います。派⽣または変更のベースモデルが、業界標準(例えば、AUTOSAR)や社内の標準化に従ったアーキテクチャ設計の場合、標準や標準化で定義されている要素をSysMLで拡張表記できる仕組みがツールでサポートされていれば、ベースモデルの表現、ベースのバージョンアップ時に、新しいサブ要素のベースへの追加が、⽂書ベースよりも容易になり、ベースとしての再利⽤性が⾼くなります。派⽣開発が多い⾃動⾞分野の商品企画にとっては、有効なアプローチになります。
複数の利害関係者が共通に理解する⽬的で、モデル活⽤時のツール選びで考慮すべき点を解説しましたが、ライフサイクル全体に渡ってモデルを活⽤する時に、別の重要な観点は、製品ライフサイクル管理(以下、PLM)との繋がりです。PLMは、ライフサイクルで⽣成される様々なタイプのデータと構成管理、変更管理などのプロセス管理を実施しています。前述の派⽣開発の例は、PLMとMBSEの連携が効果をもたらす良いケースです。商品企画段階から派⽣開発を考慮した製品開発、製造⼯程設計、製造、製品リリースに渡り、構成管理とトレーサビリティを取ることで、市場からのニーズに対して、タイムリーに、要件、設計、製造などの変更実施の判断や影響分析を複数の利害関係者と⼀緒に実施できます。また、逆に、商品企画段階で、PLMで管理されている前回プロジェクトデータを利⽤して、製品コンセプトを設計から製造を通して、データ解析(最適化、データマイニング)、シミュレーションによって分析することができます。
このように、MBSE⼿法では、モデル化の対象範囲や⽬的に応じて、様々なツール活⽤場⾯が出てきます。弊社は、MBSE⼿法をサポートしているツールベンダーとの協業によって、弊社の主⼒サービスであるプロセス改善とツールの適切な組み合わせを提案し、お客様のプロセスへの導⼊を⽀援しています。お困りの際は、弊社コンサルティング事業部にお気軽に、ご相談下さい。
2019/2/14 ⼩⻄ 晃輔