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Automotive SPICE 4.0対応に向けての準備 ―Hardware SPICEの位置づけと特徴について―

去る6月28日から30日まで開催されたVDA Automotive SYS Conference 2022の中で、intacsによって策定されたMechanical SPICE、およびHardware SPICEの各プロセスが、Automotive SPICE 4.0(以下、V4.0)に取り込まれることが発表されました。メカおよびハードウェアエンジニアリングもアセスメント対象になりやすく、今まで以上に、メカおよびハードウェアエンジニアリングを含めたプロセス改善の必要性が高まるのではないでしょうか。その必要性を受けて、例えば、ECUを開発している組織にとっては、システムとソフトウェアエンジニアリング領域に、プロセス改善対象としてハードウェアエンジニアリングが加わることで、領域間の繋がりの構築、およびプロジェクト管理・支援の再整備など改善対象範囲が拡大していくことが想像できます。

本メールマガジンでは、Hardware SPICEを取り上げ、V4.0リリース前にこれからHardware SPICEを活用しながら、ハードウェアエンジニアリングのプロセス整備を進めていく上で重要なHardware SPICEの位置づけと特徴についてご紹介致します。

最初に、Hardware SPICEの位置づけについて説明します。現在は、下図に示すように、Automotive SPICE 3.0で導入された「プラグインコンセプト」により赤枠で示したハードウェアエンジニアリングの領域において、Hardware SPICEが適用されます。ハードウェア開発におけるプロジェクト管理、サプライヤ監視、支援プロセスはAutomotive SPICEを参照します。以下の4つのプロセスが、Hardware SPICEで定義されています。各プロセスの解説は割愛します。

・HWE.1:Hardware Requirements Analysis/ハードウェア要件分析
・HWE.2:Hardware Design/ハードウェア設計(アーキテクチャ設計、詳細設計)
・HWE.3:Verification against Hardware Design/ハードウェア設計に対する検証
・HWE.4:Verification against Hardware Requirements/ハードウェア要件に対する検証

続いて、Hardware SPICEの二つの特徴について説明します。一つは、品質マネジメントシステムにおける位置づけ、もう一つはISO 26262との相互参照です。

製品設計工程は、品質マネジメントシステム(IATF16949、ISO 9001)の一部で、その中のシステムおよびソフトウェアエンジニアリングは、Automotive SPICE(参照モデル、およびアセスメントモデル)を参照しプロセスを構築することができます。一方、ハードウェアエンジニアリングに対して、Hardware SPICE(参照モデル、およびアセスメントモデル)が、単独で適用できるように策定されています。ハードウェア構成部品やコンポーネントの調達や生産もハードウェア開発の一部と捉えることができますが、これらはHardware SPICEから切り離されています。ただし、インタフェースとなるハードウェア生産データ、特殊特性、BOMなどの情報は、Hardware SPICEのプロセスで生成される作業成果物として扱われています。

また、ECUのようなハードウェアとソフトウェアを含むシステム開発では、ハードウェアエンジニアリングから他プロセスへの影響を考慮する必要があります。例えば、プロジェクト管理プロセスは、ハードウェアの検証プロセス(HWE.3、HWE.4)でサンプルを使用するため、ハードウェアサンプルを「必要なリソース」として考慮します。システム要件分析プロセスは、定義すべきシステム要件として、熱特性、寸法や重量、材料、コネクタ、筐体などの物理的な要素を考慮する必要性が出てきます。

二つ目の特徴であるISO 26262との相互参照について説明します。相互参照の背景には、Automotive SPICEアセスメントと機能安全監査は、共にプロセスの成熟度をチェックすることに焦点があてられていることから、効率的に実施する狙いがあります。Automotive SPICEのプロセスモデルは、“What”レベルを、ISO 26262は手段や方法つまり“How”レベルを扱っているため、両者の融合は可能です。これを考慮して、Hardware SPICE内のBPに、ISO 26262との紐づける相互参照が備考として記載されています。

一方、開発現場視点では、Hardware SPICEの参照モデルを基に構築したハードウェア開発プロセスに、ISO 26262-5(ハードウェア開発)の要求を具体的に実装するアプローチが適切であると受け取ることもできます。この視点で参照モデルのプロセス成果を読むと、品質マネジメントレベル、および機能安全視点で、何をすべきかを具体的に検討できます。例えば、HWE.2(ハードウェア設計)の成果5「ハードウェアアーキテクチャ設計とハードウェア詳細設計が評価されている」の場合、品質マネジメント視点では、生産性、検証性、コストなどの観点で評価基準が設定され、特殊特性を抽出する活動を定義します。機能安全視点では更に、ISO 26262 Part-5の7.4.4、8、9節からハードウェア詳細設計に対する定量評価(ハードウェアメトリクス)や従属故障解析などの定性評価を追加します。一例を紹介しましたが、このようなアプローチで機能安全の要求内容をマッピングしていくのはいかがでしょうか。

前述で触れた相互参照はV4.0で維持され、更にシステムエンジニアリング(SYS.x)や管理支援領域においても追加する方向でVDA Project Group 13内で議論されています。

本メルマガでHardware SPICEの位置づけと特徴についてご紹介させていただきました。引き続き、メールマガジンを通して、V4.0の情報を適宜紹介して参ります。弊社ではHardware SPICEの適用をご支援させていただく機会が増えており、ハードウェアエンジニアリングプロセスにおけるプロセス改善の実績がございます。また、各プロセスの詳細な解説を含むHardware SPICEのトレーニングを準備しています。ご興味がある方は弊社にお問合せください。

2022/8/3 中武 俊典