7. 能力レベル
本項では、能力レベル0から5のそれぞれの状態と、能力レベルを達成していく上でのポイントについて解説する。
[能力レベル0:不完全なプロセス]
このレベルは、該当プロセスにおいて最低限実施すべき活動が実施されていなかったり、最低限作成すべき作業成果物が作成されていなかったりする状態、または、プロセスの目的自体が達成されていない状態を示す。この状態にあるプロセスは、すでに問題の発生が顕著になっていることが多い。
[能力レベル1:実施されたプロセス]
このレベルは、該当プロセスにおいて最低限実施すべき活動が実施されており、それに伴う最低限作成すべき作業成果物が作成されている状態であり、プロセスの目的が達成されている状態を示す。この状態にあるプロセスは、最低限の成果を満足することが多いが、活動や作業成果物が実施者の能力に依存しがちであり、実施者によって成果にバラつきが見られることが多い。
能力レベル1を達成するためには、上記で述べた最低限の活動と作業成果物を満足する必要がある。活動については、Automotive SPICEに定義された該当プロセスのプロセス成果、作業成果物については、該当プロセスのアウトプット作業成果物の作業成果物特性(Automotive SPICE 付録Bに定義)を参考に、自組織で必要な活動の内容、作業成果物の内容を検討することを推奨する。
[能力レベル2:管理されたプロセス]
このレベルは、該当プロセスにおいて活動が管理された方法(目的・目標を設定し、それに基づいた計画、監視、調整が行われている状態)で実施されており、それに伴う作業成果物も管理された方法で作成、制御、維持されている状態を示す。この状態にあるプロセスは、プロセス実施者個人の能力のみに依存することなく、プロジェクトとしてある程度の品質を達成できるようになる。しかしながら、この状態は個々のプロジェクトにおける状態であり、組織内のすべてのプロジェクトが同じ状態を保証できているとは限らない。
能力レベル2を達成するためには、上記で述べた該当プロセスの活動に対する管理された方法での実施と、作業成果物に対する管理された方法での作成、制御、維持を行う必要がある。このレベルは、プロジェクト管理、構成管理、品質保証のプロセスと特に強い関連があり、これらのプロセスを強化していくことがレベルの達成において重要となる。
[能力レベル3:確立されたプロセス]
このレベルは、該当プロセスが組織の標準プロセスとして確立し、その標準プロセスに基づいて各プロジェクトが必要な活動を展開している状態である。また、組織の標準プロセスは、プロジェクトで実施されたプロセスのフィードバック等を元に継続的な改善を行う仕組みも確立している。つまり、組織やプロジェクトの変化に合わせて組織標準プロセスが最適な方向へ向かう仕組みが存在することになるが、後述のレベルのような定量的なプロセスのコントロールまでを保証している状態ではない。
能力レベル3を達成するためには、プロセスが組織標準プロセスとともに、プロジェクト毎の特性を違いに合わせて組織標準プロセスを仕立て直すテーラリングの仕組みの確立も必要である。また、プロジェクトに展開されたプロセスの有効性を確認するためのデータ収集も必要となる。これらの活動は、組織においてプロジェクト横断的に実施されるものであり、プロセス改善を推進する専門の部門を確立して管理に当たっている組織が多い。
[能力レベル4:予測可能なプロセス]
このレベルは、事業目標と該当プロセスの成果を結びつけ、その成果を達成するために定量的な測定データに基づく予測と制御が行われている状態である。この状態になると、プロセスの成果達成を阻害する変動要因へのアプローチとして定量的測定データが用いられることでプロセスの成果が定義された目標範囲内で予測可能となる。
能力レベル4を達成するためには、前述の組織標準プロセスに対し、定量的な達成目標と測定データ、目標を阻害する変動要因に対する分析と対応の方法を確立して、定量的なデータに裏付けられたプロセス管理の仕組みを運用する必要がある。
[能力レベル5:革新しているプロセス]
このレベルは、事業目標と該当プロセスの改善目標を結びつけ、プロセスが組織目標の変化に対応すべく継続的な改善の仕組みを確立している状態である。この状態になると、プロセスを制御するための測定データのバラつきを抑制するためにも定量的データを活用し、事業目標の達成をプロセス(=事業を動かすメカニズムそのもの)が完全に支配することになる。
能力レベル5を達成するためには、中長期的な事業戦略としてプロセス改善の戦略を決定する必要がある。