7.機能安全に関する今後の動向
2nd Editionの発行
機能安全規格とサイバーセキュリティ規格
SAEから自動車向けサイバーセキュリティガイダンス J3061 JAN2016:Cybersecurity Guidebook for Cyber-Physical Vehicle Systemsが2016年に発行されている。本書で推奨されているサイバーセキュリティ向けの開発プロセスはISO 26262のスキームと酷似しており、機能安全とサイバーセキュリティを考慮した統合型開発プロセスの導入が必要になるだろう。ISO 13185
技術的課題も多い。セキュリティホールが発見された場合、IT系システムであればインターネット経由でセキュリティパッチを展開することが可能だが、緊急性の高いセキュリティ対策を施そうとすれば自動車の場合、無線でのソフトウェア更新ということになるだろう。Software Over-The-Air:SOTAと呼ばれる無線技術であり自動車メーカでは実用化に向けて検討が進んでいる。自動車に向けるソフトウェア更新のシナリオを考えると、走行中に突然ソフトウェアアップデートがかかるとE/Eシステムによる安全機構が無効化される可能性があるため、このケースに限らずサイバーセキュリティと機能安全の要求が衝突しないようにシステム構築していく必要がある。
機能安全とシステムズエンジニアリング
ISO 26262で要求される作業成果物を作成することに注力している開発現場を見かけるが、ISO 26262 第4部で要求されている作業成果物(技術安全要求書、システムアーキテクチャ設計書、システム統合テスト結果など)を作成するだけでは本来のシステムズエンジニアリングの効果が発揮できていない。ボトムアップ的なアプローチで故障想定部位に対する局所的な安全機構を何重にも実装、また根拠なく安全方策を適用し開発工数を悪化させてしまうことはシステム実現が成功したと言えないだろう。コンセプトレベルから目標達成のために適切な安全方策を複数の分野の技術エキスパートと協議してシステムアーキテクチャとして決定する、あるいはASILや開発するシステムの特性に合わせて適切な安全方策を選定していくことが機能安全を考慮したシステムズエンジニアリングに求められる本質と考える。
これまで紹介してきたGSNやSTAPなどはある視点から分析対象を可視化したモデルを活用していると考えられる。それぞれ記法が違うもののモデルベースの考え方で、利点として自然言語記述による曖昧表現を排除しつつ考察結果の共通理解が容易ということだろう。システムアーキテクチャ設計をモデルを活用して行い、そのモデルを安全分析、影響分析、トレードオフ分析などの設計検証にあるいは安全論証のための根拠として活用することでそれぞれの成果物の一貫性がとれる。一貫性を確保して説明性を向上するためには努力が必要と思われるが、モデルベースの恩恵であるCAEの活用、工程の自動化が見込めるため開発効率を適度にレベルに改善することが可能である。