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車載システム開発におけるサンクコストの実態について(平田)

-Automotive SPICEを有効活用しサンクコストを回避-

2018年11月号のメルマガでは、ドイツと日本とにおけるAutomotive SPICE(以下ASPICE)に対する思想の違いについてご紹介させて頂きました。今月号のメルマガでは、ASPICEを有効活用し、サンクコストが発生しない様にする為の取り組みについて紹介させて頂きます。

サンクコスト(Sunk Cost)とは、別名 埋没費用とも呼ばれ、事業等へ費やしたコスト(資金や労力)のうち、途中で事業を撤退・縮小した際に回収できないコストを指します。

ウィキペディアには、サンクコストのわかりやすい例が掲載されています。
[例]2時間の映画を見る為に1800円のチケットを購入したが、上映開始10分後に映画がつまらないと感じた。
対応策1:映画をそのまま見続ける
 チケット代1800円と残りの上映時間1時間50分を失う。
対応策2:上映開始10分で退席する
 チケット代1800円は回収できないが、残りの1時間50分が有効活用可能な時間として残る。

今回のメルマガでは、車載システム開発におけるサンクコストの実態について触れたいと思います。車載システムの開発においては、OEMからTier1サプライヤー、Tier1サプライヤーからTier2サプライヤーという形で、開発の委託/受託が頻繁に行われますが、皆さんは開発委託におけるサンクコストについて考えてみたことはありますか?

開発の委託がうまくいかなかったケースに着目しますと、開発して欲しい要件や範囲、実施して欲しいことなどが、初期段階で受託側と合意されておらず、開発が進む中で受託側にとっての「変更」を発生させてしまうケースが見られます。この「変更」は、受託側にとってはコストアップとなり、これが繰り返されることで、結果として全体の開発コストを増やしてしまうことにつながります。開発中、このコスト増に気づいたとしても、すでに「変更」を繰り返している(上記例のチケット代を払った状態)ため、後戻りできないという状況に陥ることがあります。これが車載システム開発に見られる典型的なサンクコストです。私のこれまでの経験からも、このサンクコストを回避する為には、先ほどの初期段階での合意をはじめ、いくつかの重要なプラクティスが存在します。これら重要なプラクティスは、ASPICEの中にも共通する観点が見られ、ASPICEを体系的に活用することが、サンクコスト回避のヒントとなります。例えば、初期段階の合意については、MAN.3のプラクティスが参考になり、さらにこの理解を深める為にVDAから発行されているASPICEガイドラインを活用することができます。

[ASPICEガイドラインからの引用]
・プロジェクト活動の範囲として、プロジェクトで開発するコンテンツ、達成すべき目標、作業範囲の境界(顧客、他部署、サプライヤーなどとの間の担当区分、役割、責任の境界)、プロジェクト遂行上の制約条件を明確化しなければならない
・開発対象の製品情報が記載されているだけでは不十分である

この様に、これらのプラクティスはVDAメンバーの経験から定義されたものです。事実、OEMはプロジェクトを計画するタイミングで上記プラクティスの項目を重要視し、各サプライヤーに対しその内容を詳細に確認する傾向にあります。この定義に基づいて開発する事により、サプライヤーは開発初期段階から開発コストが損失(埋没費用)につながるリスクに気づくことになります。同時にOEMに対しても開発費が妥当である事を説明することにも役立ちます。

また、ASPICEに基づいてアセスメントを行なう事で、車載システム開発プロセスとASPICEのプラクティスとを比較して、プラクティス通りに開発が行われていなければサンクコスト回避の真因究明にも役立ちます。

当社は、サンクコストになりかねない問題をASPICEの観点から抽出し、問題を分析しベストソリューションを提案し、ドイツ系自動車関連企業と長期的なパートナーシップを構築するサポートを致します。また、改善活動の定着による企業競争力を強化する為の継続的な品質管理プログラムを用意しております。更にグローバル人財育成支援およびドイツ系自動車関連企業のプロジェクト管理も含めた、包括的な品質改善支援サービスを現地に常駐しながらマネジメント業務に直接参画し、課題の解決状況をリアルタイムで把握し、迅速な課題解決を遂行する支援サービスといった、様々な支援サービスラインナップを用意しております。

2019/04/16  平田 博