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ECU内のASILデコンポジション

ISO 26262 1st edition : 2011が発行されてから既に10年程の時が経っていますが、2023年となった今でも規格の解釈、プロセス構築などの困りごとを抱えていらっしゃる会社様が依然として多くいらっしゃいます。今回はECU単体でASILデコンポジションは成立するのかについて考察します。

ASILデコンポジションとは?
ASILデコンポジションは、元々一つのエレメントが担っていた安全要求を冗長かつ独立に分解し、それを複数のエレメントに割り当てることであり、より低いASILで開発が行えることがメリットです。要件は「冗長な安全要求」と「エレメント間の独立性担保」であり、独立性とはカスケード要因とコモンコーズ要因が存在しないことを指します。また表記のルールとしては元々与えられていたASILを分解後のASILにカッコ書きで記載する形になります。(図1参照)

図1 ASILデコンポジションの例

ECU内のASILデコンポジション考察
今回はECU等の部品内においてASILデコンポジションは成立するのか、について考察していきたいと思います。シンプルな構成として「IF(=Intended Function)」と「SM(=Safety Mechanism)」の2つとし、IF側のエレメントは高機能なマイコン、SM側のエレメントはサブマイコンあるいはハードウェアであると仮定します。このとき、もしIF側をQM(D)、SM側をASILD(D)という形でデコンポジションできるのであれば開発工数に対して多くの恩恵をもたらすはずです。

図2 ECU構成例

まず結論からですが、この例におけるASILデコンポジションは成立しません。図2のECU構成例ではIFとSMが同じピンアサインとなっているため、コモンコーズ要因を解消できず、IFとSM間でエレメント間の独立性を担保できないからです。このようにコネクタのピンアサインが指定されている、あるいは対向エレメント(センサなど)が1つしか存在しないなど、OEM側で定められたシステム上の制約があるため、ECU単独でのデコンポジションはできないということになります。
とはいえECU開発において複雑なソフトウェアが実装された高機能なマイコンを持つエレメントのASILは下げて開発したいものです。ところが個々の部品、例えばマイコンの機能だけに頼る、また、単に監視機能を追加するアプローチを用いてしまい、かえってシステムが複雑になり疲弊してしまっている開発現場もあるのではないでしょうか。
話は変わりますが、機能安全規格の上位規格であるISO 12100 : 2010ではリスク低減のための手法として「本質的安全設計」、「付加的保護方策」、「使用上の情報」を定義しています。機能安全対応は「付加的保護方策」だけであると捉えている方が非常に多くいらっしゃいますが、これは違います。高機能化、高性能化が進む中、今後も現場は限られたリソースで効率良く開発を進めてくことが求められます。今こそ「本質的安全設計」に立ち返り、取り組んでいくことが非常に重要であると感じています。
弊社では安全工学の各種技法を用いることでシステムを複雑化させることなく安全設計を行うコンサルティングサービスを提供可能です。ISO 26262 2nd edition : 2018の実装支援トレーニングも実施していますので是非ご利用下さい。
本記事が読者様の一助となれば幸いです。

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2023/6/28 山田 毅

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