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Automotive SPICEにおけるプロセスの解釈について
(トレーサビリティ)

 2024年10月号では「品質保証プロセス」をテーマにAutomotive SPICEにおけるプロセスの解釈を深堀りしました。今回はPAMの理解をさらに深めるため、「トレーサビリティ」に焦点を当ててご紹介します。
「トレーサビリティ」という言葉は日常的に使われますが、その解釈に違いが生じやすい言葉の一つです。「とりあえずトレーサビリティが取れていれば良い」という誤解や、最近のアセスメントでも、ある要求に対する検証が行われておらずそれが意図的なものかがわからないといった問題も見受けられることがありました。
 そこで今回は、Automotive SPICEで重要視される以下の2つの概念について、改めて考えてみます。

● トレーサビリティの確立

 トレーサビリティの確立とは、例えば、上図のように複数の要求、検証手段、検証結果が存在する場合に、どの要求がどの検証手段、検証結果に対応しているのか、その対応関係を明確にし、追跡可能な状態を維持することを指します。対応関係を格子表(マトリクス)で表現する方法や、ツールを用いて体系図として整理する方法が一般的に用いられます。これにより、各要求が漏れなく検証されているかを確認できます。

● 一貫性の確保

 一貫性の確保とは、関連する要素間で内容や意味が正しく引き継がれ、矛盾がないことを保証することです。この例では、検証手段の妥当性を確認するために、どの上位要求から作られたのかという「繋がり」を明確にする必要があります。そのため、トレーサビリティの確立が前提となり、それを活用した確認で一貫性が裏付けられます。例えば、各要素間の一貫性を全てセルフチェックしておき、レビュー会で確認するなどです。Automotive SPICEで期待されているトレーサビリティの全体像(下図Figure C.5)において、設計要素から検証手段を作成する過程は「考えて作り出す」活動であり、正しさを保証するために一貫性が求められます。一方、検証手段と検証結果は、「考えて作り出す」よりも「それに従っただけ」の活動であるため、一貫性までは求められておらず、「正しくつながっている」ことを示すなどのトレーサビリティのみが期待されています。

 また、トレーサビリティ情報の主な活用例として、利害関係者のすべての要求が最終的に検証手段や検証結果に反映されていることを証明する網羅性の保証が挙げられます。上位要求がソフトウェアの要求に反映されていない、または対応する上位要求が存在しないなどの事態を防ぐため、双方向のトレーサビリティを確立し、矛盾がないかを確認することが大切です。例えば、上位要求が無いのにソフトウェア要求が設定され、結果として出所不明な機能がソースコードに実装されているといった問題がないように上位要求からの繋がりを明確にする必要があります。
 さらに、トレーサビリティ情報は、要求や設計変更時に影響を受ける設計要素や検証手段を迅速に分析する際にも役立ちます。例えば、不具合改修に伴い、ある設計要素に修正を加えた際に、その修正部分の確認に必要な既存の検証手段、他に正常に動作していた部分に影響が及んでいないかを確認するために、その修正を加えた設計要素に直接的に関連する設計要素、検証手段などを特定することができます。

 今回は「トレーサビリティ」についてご紹介しましたが、他にもAutomotive SPICEを読んでも実際の活動や成果物のイメージが難しいと感じられることもあるかもしれません。弊社では、こうした課題の解消に繋げるためにも「プロセス基礎トレーニング」を実施しています。このトレーニングでは、Automotive SPICEに含まれるプロセスを対象に実施担当者およびプロジェクト管理者の視点で必要な活動や成果物の観点、アセスメントでの事例も交えてわかりやすく解説しています。
また、テスト活動の実行と管理に必要な知識を学ぶ「プロジェクト概論トレーニング(テストマネジメント、ソフトウェアテスト)」、組織標準プロセスの構築・維持に関する「課題解決ワークショップ」など、様々なトレーニングもご用意しております。詳細は以下のwebをご覧いただき、ぜひご受講をご検討ください。
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2025/1/22 山下 祐太朗