「全数監査」の限界を突破する
~ 国際規格をベースにした戦略的サンプリングのススメ ~
自動車業界の品質保証の最前線で、日々プロセスの遵守に尽力されている皆様、お疲れ様です。
本メルマガでは、Automotive SPICE(A-SPICE)を「現場を縛る鎖」ではなく「プロジェクトを支える武器」に変えるためのヒントをお届けします。
テーマは「監査の効率化」です。現場を疲弊させる「全数監査」の限界を認め、国際規格を用いてロジカルに監査対象を絞り込む考え方をお伝えします。
■ 現場を覆う「100%監査」のジレンマ
SDV(ソフトウェア定義車両)への移行に伴い、開発現場で生成される成果物の量は爆発的に増え続けています。その一方で、QA(品質保証)のリソースは限られており、「全ての成果物を隅々まで監査する」という理想と、現実にかけられる時間の乖離は広がるばかりです。
その結果、何が起きているでしょうか。
監査が「チェックリストを埋めるための作業」に化け、最も重要であるはずの「要求からテストまでのトレーサビリティの一貫性」を深く追う余裕が失われていないでしょうか。網羅性を求めるあまり、監査の「密度」が犠牲になっている。これが多くの現場が抱える深刻な疲弊の正体です。
■ 「なんとなくの間引き」が抱えるリスク
もちろん、現場でも「主要なものをピックアップして確認する」という工夫はなされているでしょう。しかし、「なぜその項目を選んだのか」「なぜその数で全体を保証できるのか」という問いに対し、アセッサーが納得する客観的な根拠を提示するのは容易ではありません。
根拠の薄いサンプリングは、監査の信頼性を損なうだけでなく、重要な変更箇所の見落としが発生する、実務的なリスクを抱えています。
■ 国際規格という「ロジック」を味方につける
ここで立ち返るべきは、先人が築いた統計学的なアプローチです。
例えば、製造現場の抜取検査で広く使われる国際規格(ISO 2859-1:計数値検査に対する抜取検査手順)などの考え方を、プロセス監査のサンプル数選定に応用してみるのです。
これは単なる「手抜き」の正当化ではありません。
「母集団の特性に対し、統計学的に導き出された〇件を精査することで、全体の品質を客観的に実証する」
この国際規格の理論をバックボーンに据えることで、客観性に欠ける判断を排除しアセスメントにも耐えうる「強い根拠」を持つことができます。
統計的に妥当な数までサンプルを絞り込むことができれば、解放された時間を、より「付加価値の高い活動」に充てることができます。
例えば、新規開発機能や複雑な変更箇所に対し、要求仕様書からソースコード、テスト結果に至るまでを徹底的に追跡する。この「深く、鋭い監査」こそが、上辺だけの100点満点よりも、製品品質を確実に担保します。
■ 品質保証としての「戦略的な選択」
Automotive SPICEが求める品質保証の本質は、盲目的な全数チェックではなく、「リスクを管理し、プロセスが正しく機能していることを客観的に実証すること」にあります。
統計的な根拠に基づき、リソースをどこに集中させるかを選択する。このロジカルな姿勢こそが、QAを「形式的なチェッカー」から「戦略的なリスクアナリスト」へと進化させます。
「全部やる」という呪縛を解き、科学的な視点で監査の質を再設計してみませんか。
2026年2月12日 牛込 一安