Automotive SPICEへの対応を煩わしい義務のように感じていませんか?
日々の開発業務に追われる中で、Automotive SPICE(A-SPICE)への対応が、いつの間にか「膨大なドキュメント作成」や「形式的な手続き」といった、煩わしい義務になってはいないでしょうか。
もし、そのように感じているとしたら、非常にもったいないことかもしれません。なぜなら、プロセスは本来、私たち技術者を縛るものではなく、成長へと導いてくれる強力な武器となり得るからです。
今回は、A-SPICEとの向き合い方が変わるきっかけとなった私自身の体験談をご紹介します。
このメルマガをきっかけに、皆さんがA-SPICEとの向き合い方を見直すきっかけとなれば幸いです。
あなたは、A-SPICEとどのように向き合っていますか?
「またレビューか…」「この書類、何のために作るんだ…」
多くの開発現場で、このような声が聞こえてきます。A-SPICEは、品質の高い製品を生み出すための優れたフレームワークであるにも関わらず、その本質が見失われ、形骸化した「やらされ仕事」になっているケースは少なくありません。
しかし、A-SPICEを「個人のスキルを高め、組織を成長させるための羅針盤」として捉え直すことができたら、どうでしょうか。
プロセスへの想いの変化 – 体験談
これは、私が民生機器の開発から、自動車業界に飛び込んだ頃の話です。あるOEMの製品開発プロジェクトに、ソフトウェア担当として抜擢されたものの、それは白紙からの新規開発。車載製品開発の経験もない、設計プロセスは無い、ベースとなる資産もない、まさに手探りのスタートでした。
正直なところ、かなり苦労しました。しかし、そこで得られた経験が、私のプロセスに対する考え方を180度変えることになります。
OEMの指導は厳しくも的確でした。要求分析から始まり、仕様化、アーキテクチャ設計、詳細設計、そして各テスト工程へ。一つひとつの工程で徹底的に問われたのは、「なぜ、そのように考えたのか?」という原理原則と、細かな数値に至るまでの根拠でした。
安全で安心な製品は、決して偶然では生まれない。設計の根拠を一つひとつ積み重ね、論理的に説明できるプロセスを経てこそ、初めて実現できるのだと肌で感じたのです。
驚いたことに、細かな点まで根拠を持って開発を進める中で、論理的に物事を組み立てる力や、設計の意図を正確に説明する力が自然と身についていきました。この「自分の仕事に自信が持てる」という感覚こそが、苦しいはずだった仕事を大きな達成感と充実感に変えてくれたのです。この感覚こそ、プロセスがもたらしてくれた最初の恩恵でした。
役割毎の意識を変えるには? – 義務から「成長の機会」へ
この経験から確信したことがあります。それは、プロセスは組織の品質を向上させるだけでなく、個人のスキルを飛躍的に向上させるということです。プロセスとは、単なる手順書ではありません。それは、先人たちの知恵が詰まった「考えるべき観点や手順をまとめた道しるべ」です。
エンジニアは、プロセスを通じて「なぜこの作業をするのか」を深く理解し、設計の根拠を自らの言葉で語れるようになります。それは、受け身の作業者から、主体的な開発者へと変わる瞬間です。
プロジェクトマネージャーは、プロセスをチームの「共通言語」とすることで、単なる進捗管理を超えた価値を生み出せます。「なぜこの手順が必要か」「どのような品質を目指すのか」といった判断基準をプロセスを通じて共有することで、メンバーは目的意識を持って作業に取り組めます。その結果、経験の浅いメンバーも自律的に考える力が養われ、育成へと繋がるのです。
品質保証担当者は、プロセスの観点から建設的なフィードバックを行うことで、単なる指摘者ではなく、開発チームと共に品質を作り込むパートナーへと変わることができます。
プロセスに沿って開発するということは、各メンバーがそれぞれの役割の中で「プロフェッショナルとしての思考法」を鍛えることに他なりません。その個々の成長が、結果として組織全体の品質向上という大きな力になっていくのです。
A-SPICEとの向き合い方を、今こそ見直しませんか?
A-SPICEへの対応は、確かに膨大な作業を伴います。しかし、それを「煩わしい義務」と捉えるか、「自分と組織を成長させる絶好の機会」と捉えるかで、得られる結果は全く異なります。
プロセスは、人材育成の側面を色濃く持っています。そして、プロセスを見直し、改善していく活動は、個人の経験やノウハウを「組織の資産」に変える重要な取り組みです。優れたエンジニアの頭の中にあった「暗黙知」が、誰もが参照できる「形式知」になることでチーム全体の技術力が底上げされます。これにより特定の個人に依存しない強い開発体制が築かれ、会社の持続的な成長の基盤となるのです。
あなたは、A-SPICEを単なる「義務」として捉えていますか?それとも、未来へ進むための「羅針盤」として活用していきますか?
この問いかけが、あなたのA-SPICEとの向き合い方を変えるきっかけになることを願っています。
【リンク】
今回のメルマガでは、A-SPICEと向き合う「姿勢」について、私の体験談を交えてお伝えしました。
ご紹介する以下のリンクでは、その土台となる「A-SPICEとは何か」について、目的や構造、認証のメリットなどが体系的に解説されていますので合わせてご覧いただけたら幸いです。
〇 Automotive SPICE(開発現場向け)
2025/9/25 牛込 一安