メールマガジン

MAIL MAGAZINE

プロセスマイニング:イベントデータからプロセスの再構築と改善を進める(小西)

昨年、皆様にお届けしたメルマガの中で、プロセス改善をテーマにしたプロセスモデリング手法チケット管理ツールの活用方法を紹介しました。今回のメルマガのテーマは、「プロセスマイニング」です。プロセスマイニングは、プロセスの状況をイベントデータ(時系列データ)とプロセスモデリングから可視化する手法で、ここ1、2年で業務フロー改善の手法として、注目されるようになりました。本メルマガでは、プロセスマイニングの概要とどのようなことができるかを解説します。

プロセス改善を実施する場合、多くは、Automotive SPICEのようなプロセスモデルを用いて、現状プロセスとのギャップを抽出し、改善案、改善活動計画を策定し、改善を進めます。プロセスマイニングでは、Automotive SPICEのような比較するプロセスモデルを持たず、現状のプロセス実施から得られるイベントデータを分析し、プロセスを再構成し、見える化します。すなわち、大量の時系列データを分析する手法(統計学、機械学習など)とプロセスをモデル化する手法(ビジネスプロセスマネージメント:BPM、ペトリネット、確率論、最適化など)を融合した手法がプロセスマイニングです。現在、この手法を実現しているプロセスマイニングツールが市場に提供されています。本メルマガでは、ツールの紹介は、割愛します。

前述の「イベントデータ」にどのような情報を持たせるかが、プロセスマイニングの活用では鍵になります。データを分析する技術も含まれるので、イベントログデータにより多くの情報を持つことで、多面的な解析に活用できます。イベントログデータに最低限必要な情報は、ケースID(プロセス実施単位に与えたユニークな識別子)、ケース内で実施された作業の開始時間と終了時間、作業の名称、作業を実施した人です。例えば、ソフトウェアアーキテクチャ設計プロセスの場合、「ソフトウェアアーキテクチャ設計プロセス」がケースIDに該当し、その中で実施した各作業(ソフトウェアアークテクチャ設計書の作成、ソフトウェア要件の割当て、動的な振舞いの記述など)の開始時間と終了時間、作業を実施した人をイベントデータとして作成します。JIRAやMS-Projectなどのプロジェクト管理ツールを使用して作業を定義、進捗管理している場合は、これらのデータを含むイベントログは、管理ツールからcsv形式で生成します。イベントログデータから、ペトリネットのようなプロセスモデルが、コアなプロセス検出アルゴリズムによって生成され、フロー図やアクティビティ図のように、見える化されます。

プロセスマイニングの活用ポイントは、ツールを通して、見える化されたプロセスとイベントデータが関連付けられているので、多面的な解析を行うことです。例えば、全イベントデータを通して、どのような活動が関連して実施されているかを可視化すると、作業の流れの整流化、ムダな作業の存在抽出、手戻り状況の把握と原因究明、ボトルネックになっている作業の抽出(負荷の集中状況)を分析することに役立ちます。また、大量のイベントデータをもとに、プロセスモデルが生成される特徴を活用すると、「定義されたプロセス」に対して、イベントデータからプロセス実施の逸脱を検出します。複数のプロジェクトが並行して実施されている状況で、プロセス監査の一部(プロセス実施の逸脱)を代行してくれます。さらに、イベントデータの情報に計測したい指標(KPI)を設計し、各活動実施にイベントデータを生成する仕組みに追加します。生成されたイベントデータが指標に対する計測データ値を含むので、プロセスマイニングを通して、各プロセス内の活動実施とデータ値の関係を多面的に分析できます。これは、Automotive SPICE能力レベル3の達成成果に紐づくGP3.1.5(プロセスの有効性・適切性を測定する手法)とGP3.2.6(プロセス実施のデータ収集と分析)を実現しているとも考えられます。このように、プロセスマイニングは、プロジェクト管理と分析、品質保証活動、標準プロセスの有効性確認の一手段になります。

複数のプロジェクトが実施された活動結果をもとに、標準プロセスを構築する際にも、プロセスマイニングが活用できます。各プロジェクトの中で各活動実施に対して、前述の必要な情報を含むイベントデータが生成されていることが前提になりますが、これらの大量のデータをプロセスマイニングによって可視化します。複数のプロジェクトに渡って共通に実施されている作業とその作業実施順序は、ベストプラクティスとして標準化します。同一プロセス内で実施数の少ない作業は、テーラリング対象と考えても良いかも知れません。また、作業とそのフローに着目するだけでなく、イベントデータに含まれる指標に関わるデータと作業実施順序の関係性を分析して、テーラリング時の制約を考えることができると思います。

ここまでは、標準プロセスが存在している、または、プロジェクトごとで各プロセス内の活動が定義、実施されているケースを前提に、プロセスマイニングの活用案を紹介しました。しかし、成果物の作成や活動が担当者レベル行われている場合(例えば、Automotive SPICE能力レベル0または1と判定されている場合)、プロセス内の活動を実施または、管理するツールが導入されていないことが多いです。つまり、プロセスマイニングに必要なイベントデータが、担当者の作業実施時に生成される仕組み自体がないと考えられます。このようなケースに対して、弊社は段階的に支援するサービスを提供しています。最初のステップでは、プロジェクトで実施される活動を定義し、その進捗を管理するツールや各活動を実施するためのツール導入を支援します。次のステップでは、各担当者の作業内容をイベントデータとして残す仕組みをツール上に実現し、各担当者の作業実施で生成されたイベントデータにプロセスマイニングを適用し、その結果を分析します。そして、最後のステップでは、分析結果から作業の流れを整流化しプロセスを定義します。

本メルマガでは、お客様のプロセス定義または実施状態に応じたプロセスマイニング手法の活用について紹介しました。紹介したサービス内容にご興味のあるお客様は、弊社コンサルティング事業部にお気軽に、ご相談下さい。

2020/2/10 ⼩⻄ 晃輔