intacsアンケート調査から見るAutomotive SPICE導入の費用対効果
ますます複雑化、大規模化する車載システムの開発において、Automotive SPICEに基づくプロセス改善の必要性を感じながらも、投資に対する費用対効果が得られるかを不安に感じている組織も多いのではないでしょうか。また、別の状況として、すでにプロセス改善を進めており効果を感じているが、プロセス改善を継続するための投資に対する費用対効果の説明を社内から求められているプロセス推進担当者の方も多くいらっしゃるかと思います。
そのような方々に向け、今回のメルマガではAutomotive SPICEを制定しているintacsが2025年2月から4月にかけて行った「Automotive SPICE導入プロジェクトにおける経験と経済性※」に関するアンケート調査の結果をご紹介します。このアンケート結果から、業界平均的にはプロセス改善によってどのような経験やメリットが得られているのかをご確認いただければと思います。
※アンケートの原題は「Automotive SPICE Project Experience and Profitability – Survey Insights」です。
はじめに、アンケートの概要をご紹介すると、以下のようになります。
- 回答者数:209名(うち有効回答数167)
- 言語ごとの回答者数
⇒英語:79名
⇒中国語:81名
⇒日本語:7名 - 回答者の所属組織
⇒サプライヤー:58%
⇒OEM:19%
⇒コンサルティング会社:19%
⇒データおよびサービス提供事業者:2%
⇒半導体:2%
では、続いていくつかのアンケート項目への回答結果をみていきましょう。1つ目は回答者の組織が達成したAutomotive SPICE能力レベルです。過半数のプロジェクトが能力レベル2を達成している一方、レベル3を達成している組織は全体のうち2割強にとどまっています。この結果から、これ以降で紹介していくアンケート項目に関する結果は能力レベル2以上を達成していることを前提条件として考えるのが妥当そうです。

2つ目の項目は、Automotive SPICE準拠のプロセスを構築するのにどれくらいの追加コストを必要としたかです。一番多い回答は通常の開発費用の15%以上の追加コストが発生したとなっています。このような状況から、Automotive SPICE対応には多くのコストがかかるといった情報のみが業界内で広がり、多くの組織にプロセス改善の取り組みを始めるのを躊躇させる要因となっているのかもしれません。
たしかに、プロセス改善を行うにはコストがかかります。問題は、プロセス改善にかけたコスト(投資)以上のリターンが得られるかです。では、実際にはプロセス改善の費用対効果としてどれくらいのリターンが期待できるのでしょうか?

その答えがこちらの回答になります。一番多い回答としては費用対効果がほぼ0となっていますが、次いで多いのが10%以内の改善効果が得られたという回答になっています。また、7.3%のプロジェクトでは10%以上の改善効果が確認されています。一方、11.9%のプロジェクトでは費用対効果はマイナスだったと報告しています。この結果から、9割弱のプロジェクトで少なくともプロセス改善への投資と同等以上の開発費削減効果が得られていることが分かります。

続いては、開発コストには表れないプロセス改善の効果について見ていきたいと思います。1つ目は、Automotive SPICEに準拠したプロセスを構築することで、顧客満足度がどう変化したかです。以下のグラフから7割以上のプロジェクトにおいて、顧客満足度が向上したことが分かります。顧客満足度が向上することで、後継機種の開発受注などの機会創出によるビジネス面での恩恵が期待できます。

最後に、Automotive SPICEに基づくプロセス改善の結果をプロジェクトメンバーがどう受け止めているかを確認してみましょう。御覧の通り、6割以上のプロジェクトにおいて、プロジェクトメンバーはプロセス改善の結果に満足しているという結果が得られています。

ここまで、intacsが実施した「Automotive SPICE導入プロジェクトにおける経験と経済性」に関するアンケート調査からいくつかのアンケート項目を抜粋して結果を確認してきました。アンケート対象プロジェクトの中にはAutomotive SPICEに基づくプロセス改善について、「費用対効果がマイナスとなった」、「プロジェクトメンバーが結果に満足していない」といった否定的な回答をしているプロジェクトも見られました。これはあくまで推測ですが、そのような否定的な回答をしたプロジェクトでは、Automotive SPICEの規格に書かれているアウトプット情報項目(V3.1ではアプトプット作業成果物)を盲目的にすべて作成するような誤ったプロセスが構築されてしまったのかもしれません。一方、目指すべき品質や開発効率といった達成すべきゴールを設定したうえで、Automotive SPICEに基づくプロセス改善はあくまでそのための手段と捉えて活動したプロジェクトでは少なくとも投資費用と同等以上の開発費削減効果や顧客満足度の向上といった成果を得られるということが今回のintacsのアンケートによって示されたのではないかと思います。
これからプロセス改善を始めるか迷われてる組織の方は、正しいプロセス改善を行えば必ず成果が得られると信じ改善活動を始めていただければと思います。また、プロセス改善の費用対効果を社内へ説明しなければならないプロセス推進担当者の方は、業界内の傾向として正しいプロセス改善を行っている組織では投資以上の効果を得られていることを関係者へ説明し、引き続きプロセス改善を続けていいただければと思います。
今回ご紹介したアンケート結果を受けて、プロセス改善を開始したいと思われた方々の中には、具体的にどのように改善を進めればよいかわからない方もいらっしゃるかもしれません。その場合は、当社にてお客様の現状をヒアリングさせていただき、最適なプロセス改善案をご提案させていただくことが可能です。
また、弊社ではプロセス改善の進捗状況や改善効果を可視化するためのBI環境構築サービスもご提供しております。もしご興味をお持ちいただけましたら、当社HPトップのお問い合わせフォームよりお気軽にお問合せいただけると幸いです。
【リンク】
当社コンサルティングサービス:https://biz3.co.jp/service/consulting
BI環境構築事例(過去のメルマガ):https://biz3.co.jp/download/column/9201
「プロセス改善」から「競争力強化のための変革」へ:https://biz3.co.jp/service/consulting/8317
2025/10/29 蛸島 昭之