Automotive SPICEにおけるプロセスの解釈について
（プロジェクト管理）

今回は、9月号「Automotive SPICEにおける品質保証の特徴」に続いて、プロジェクト管理プロセスを対象に、アセスメントでよく見られる弱みの１つである「プロジェクトの見積もり」について解説いたします。

Automotive SPICEにおける、MAN.3 プロジェクト管理プロセスで、重要な要素の１つが「プロジェクトの見積もり」です。「プロジェクトの見積もり」と聞くと皆さんは何を見積もりますか。

例えば、あるレストランで100名の予約が入った場合、顧客の要求（日時、予算や希望の料理、アレルギー有無など）を入手し、プロジェクトの目標（顧客の要求の達成、料理の提供遅れ0件、顧客満足度xx%以上など）を定義し提供する食材のコスト、必要な食器（皿、グラス等）や調理道具のコスト、対応に当たるスタッフの人数、スタッフの役割（調理、提供、案内）に応じたスキル、注文システム（インフラ）などの設備、人数に対応したドリンクの数量などを見積もる必要があります。このように「プロジェクトの見積もり」と言っても、見積もりの対象となる項目は数多くあります。自動車開発の見積もりも同じで、お金だけではなく、工数やツールなども見積もりに含まれます。ここで見積もりの対象となる開発に必要な要素を、網羅的に洗い出し見積もりを実施していないと、正確なプロジェクト計画を立てることができません。

上記の項目を実際のプロジェクトの見積もりに含まれていないことがアセスメントやギャップ分析において数多く見受けられます。ここで、実際のアセスメントであった事例を紹介いたします。

最も多く見受けられたケースは「エンジニアリング領域の工数やツールは見積もっているが、管理支援領域の工数やツールを見積もれていない」というものです。システムやソフトウェアの開発するための工数やツールに関しては、過去の経験を基に細かく見積もられているのですが、プロジェクト管理や構成管理などの管理支援領域に関しては活動内容に対して工数の見積もり漏れや、プロジェクト管理ツールや構成管理ツールが見積もりから漏れているケースがよくあります。また、この他にも週次で実施するミーティングや報告の見積もりが参加人数分見積もれていない場合もあります。

仮にこの状態でプロジェクトを開始すると予定していた工数をオーバーし、最終的にプロジェクトの遅延の原因となります。

このような問題が発生する原因の１つとして挙げられるのが、WBS（Work Breakdown Structure）ですべてのタスクが網羅されていないことが考えられます。WBSを作成する際に、エンジニアリング領域だけではなく管理支援領域の活動も細かく定義し、誰がやる活動なのかと役割と責任を明確にしておく必要があります。このように、一見見積もりの問題に見えますが他の定義に問題があり、それが見積もりに影響することがあります。プロジェクト管理プロセスで計画する要素、目標、体制、WBS、スケジュール、役割と責任、環境・説明、スキルとトレーニング、情報伝達の方法などは相互に関係しています。1つでも定義や計画に不備があると他の要素に影響します。したがって、計画する要素間のつながりを考慮することが大切です。

弊社では、Automotive SPICE に含まれるプロセスを対象に実施担当者およびプロジェクト管理の視点で必要な活動や考え方を習得いただくためのトレーニングを実施しております。アセスメントで見かけた事例なども織り交ぜながらお話をさせて頂いております。詳細につきましてはWeb（https://biz3.co.jp/publictraining_category/automotivespiceengineer）にて案内をさせて頂いておりますので、興味がある方は是非トレーニングの受講をご検討下さい。

2022/11/9 谷川 敏嗣

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