構築した開発プロセスが現場に浸透した組織の共通点
1. 開発プロセスの「展開」を超えた「浸透」
構築した開発プロセスを開発現場に展開するとき、皆様はどのような取り組みをされているでしょうか。
例えば改善計画を立てる、説明会を開く、関連する規格やモデルのワークショップを行う、トレーニングを実施する、などさまざまな方法があると思います。こうした取り組みを行っても、思うように現場へ根づかなかった経験はないでしょうか。プロセスを「展開」することはできても、それが現場で使われ続ける状態、つまり「浸透」まで至るとは限りません。
今回は開発プロセスを展開するだけでなく、当初の想定を超えて組織の中に浸透していったお客様に見られた共通点について、私の経験をもとに整理してみます。
2. 開発プロセスを突然展開すると起こること
では、開発プロセスを現場のプロジェクトに突然展開したとき、どのようなことが起こるのでしょうか。私がこれまで開発現場で見てきた反応や状況を思い返せば次のとおりです。
展開のタイミング(機運の高まり)
・関係者が問題や課題を認識しておらず、白けた雰囲気になる(または反応がない)
関係者の理解度
・開発プロセスの意図や内容を理解している人が少なく、実際に動ける人がいない
関係者の受け止め方(個人の感情)
「信頼している上司やリーダーが言うからやってみよう」
「しばらく周囲の様子を見て、うまくいったら後からやろう」
「どういう背景や意味があるのだろうか」
「自分には関係がない気がする」
「自分にメリットがあるだろうか」
「必要性は理解できているが、忙しくて手をつけたくない」
「難しそうで、とても自分にできる気がしない」
「以前から必要だと感じており、むしろやりたかった」
少し極端な例かもしれませんが、皆様も過去に同じような雰囲気や反応を感じたことがあるのではないでしょうか。
関連メルマガ:そのプロセスは生きていますか?~形だけのAutomotive SPICE運用から抜け出す「現場目線」の改善サイクル~
https://biz3.co.jp/download/column/9500
3. 構築した開発プロセスが浸透した組織の共通点
一方で展開にとどまらず、当初の計画を超えて開発プロセスが組織に浸透したお客様をいくつか見てきました。その過程を振り返ると、次のような状況の変化が見られました。
■浸透した過程の一例※1
- Automotive SPICEのアセスメントへの対応を任された
- Webの情報収集やAutomotive SPICEのトレーニングに参加する
- アセスメントを受けたものの結果が思わしくなく、専門家に助言を求める
- 専門家と一緒に改善活動を進め、アセスメントで結果が出始める
- その結果が隣のプロジェクトや他部署、上位管理層に伝わる
- 隣のプロジェクトや他部署から相談を受け始め、上位管理層からもAutomotive SPICEについて聞かれるようになる
- 少しずつ隣のプロジェクトや他部署にも必要性を感じる人が増える
- 上位管理層の中にも必要性を理解する人が現れ、部門レベルの取り組みになる
- 専門の担当者や専門部署が生まれ、より大きな業務として位置づけられる
- 専任担当者が増え、会社や事業部レベルの取り組みとして定着する
これらの過程は、さらに抽象化すると下図の5つのステップに整理できます。

図 組織に浸透する5つのステップ
浸透したお客様を観察していると、展開や定着のための計画や施策を進めるだけでなく、関係者を巻き込みながら実行し、きめ細かなマネジメントが行われていたように感じます。それが唯一の決め手とは言い切れないものの、浸透が起こりやすい状況を生み出していたのではないかと考えています。
■きめ細かなマネジメントの一例
- 信頼を得ているマネジメント層やリーダーが、繰り返し発信している
- プロジェクトを超えてコミュニケーションできる場がつくられている
- 関係者との対話を積み重ねながら、それぞれのスキル、理解度、感情を踏まえて行動を促している
さらに細かく見れば、関係者一人ひとりの気づき、理解の深まり、感情の変化が何度も起こり、その変化が人から人へ伝わっていく回数の多さが、浸透につながっていたのではないかと推測します。
関連メルマガ:心理的安全性がなければプロセス改善は進まない?
https://biz3.co.jp/download/column/4778
4. 開発プロセスを浸透させるためにできること
ここまで開発プロセスを展開するだけでなく、さらに浸透まで進んだ組織の共通点を見てきました。開発プロセスの浸透は、開発の進め方や顧客満足度などの向上につながるのではないかと考えられるアンケート結果※3もあります。浸透の過程で組織が抱えていた開発現場のさまざまな課題が解決に向かう可能性があるのではないでしょうか。
明日から浸透につながる取り組みを始めるとしたら、まず小さな対話の場を増やすことをお勧めします。例えば1on1や情報共有の会議で、関係者の理解度や感情を踏まえて対話することが挙げられます。また、チーム間の情報共有の場がなければ意見交換できる会議やチャットのスレッドを設けるだけでも、最初の一歩になります。きめ細やかなマネジメントは自律性を重んじるティール組織※2の書籍を手に取ると具体的な事例が数多く述べられています。もしかしたら浸透のヒントが得られるかもしれません。またリーダーシップやコーチングにも浸透の手がかりになるのではないかと考えています。
開発プロセスを浸透させる手立てはマネジメントの経験や知識によって、取り得る方法はさまざまです。私自身も、お客様のお話を伺う中で新たな気づきを得ることがあります。今後も皆様のプロジェクトの状況や構築したプロセスの背景をお聞きしながら、浸透につながる手立てを一緒に考えていければと思います。
構築した開発プロセスの定着や浸透でお悩みの方は、ぜひご相談ください。
※1 複数のお客様の事例をもとに共通する傾向を抽象化してまとめた一例です。
※2 「ティール組織-マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現」, 2018年, 英知出版
※3 intacsアンケート調査から見るAutomotive SPICE導入の費用対効果
https://biz3.co.jp/download/column/9773
2026年3月12日 西門 克郎