Automotive SPICE 3.1

Intro to Automotive SPICE 3.1

6. サプライヤーにおける活用

前述のように、欧州のOEMとのビジネスにおいてAutomotive SPICEの能力レベル達成が要求事項として掲げられることが多い。

本来、プロセス改善は製品の品質を向上させるための手段であり、能力レベルの達成はその状況を確認するための一つの指標に過ぎない。しかしながら、能力レベルの達成がビジネス上の条件として掲げられることにより、表層的なレベル達成に主眼を置いた活動を展開してしまうことで、プロセスが定着せず結果的に製品の品質を向上させられてないケースを目にすることがある。これでは本末転倒である。

本項では、サプライヤーの視点でAutomotive SPICEの活用を探る。

製品の品質を向上させるためには様々な角度からのアプローチが必要となる。“Automotive SPICEの能力レベル達成”というキーワードが掲げられた場合、標準プロセスやテンプレートの整備ばかりに着目する組織が多いが、本質的な能力レベルの達成のためにはプロセス定義だけでなく、それを実行する人の能力、そして使用するツール等のインフラが不可欠となる。

ただし、これらすべてを一足飛びに理想的な状態へ変えることは不可能であり、中長期的な改善計画の中で段階的な改善が必要となる。長い年月をかけて成熟してきた組織の標準プロセスをそのまま別組織へ適用してもうまくいかない。プロセス、インフラ、人の三要素は組織固有のノウハウを確立しながら成熟していくべきものなのである。

このように、プロセス改善には長い年月が必要であるが、実際のところ、能力レベル達成だけを目標にした結果、せっかく定義したプロセスが組織に定着せず、数年後には形骸化してしまった残念なケースがAutomotive SPICE対応が広がっていく過程の中では見られていた。当社ではこのようなケースを回避するための施策として、プロジェクト、組織、事業のそれぞれの視点から段階的な目標設定を行い、改善のステージ毎に開発の基礎力、組織力、企業競争力を強化していくためのアプローチを提唱している。本アプローチの基本的なコンセプトは、Automotive SPICE 3.1 実践ガイドブック 入門編の冒頭で解説されている。