Automotive SPICE 3.1

Intro to Automotive SPICE 3.1

8. トレーサビリティと一貫性

Automotive SPICEにおいて重要視されている概念の一つに双方向トレーサビリティの確立と一貫性の確保がある。特にAutomotive SPICE V3.0以降ではこれらが個別の基本プラクティスとして定義され、重要性が強調されることとなった。本項では、Automotive SPICEにおける双方向トレーサビリティと一貫性の考え方について解説する。

まず、ISO/IEC 15504およびAutomotive SPICEのバージョンによるトレーサビリティと一貫性に関する記述をまとめたものを紹介する。(記述は用語統一の目的で意訳している)

各プロセスアセスメントモデルにおいて下線の箇所に着目していただくと、特徴の違いを把握することができるが、Automotive SPICEの特徴は、一貫性を裏付けるための手段としトレーサビリティを位置づけているということと、トレーサビリティの双方向性に言及している点にある。

プロセスアセスメントモデル 記述
ISO/IEC TR 15504-5
(1999年)
トレーサビリティを確立し、一貫性を確保する
Automotive SPICE PAM V2.2
(2005年)
一貫性を確保する。一貫性は双方向トレーサビリティを確立し、維持することにより裏付けられる。
ISO/IEC 15504-5
(2006年)
一貫性を確保する。一貫性は必要であればトレーサビリティを確立し、維持することにより裏付けられる。
Automotive SPICE PAM V2.3
(2007年)
一貫性を確保する。一貫性は双方向トレーサビリティを確立し、維持することにより裏付けられる。
Automotive SPICE PAM V2.4
(2008年)
Automotive SPICE PAM V2.5
(2010年)
ISO/IEC 15504-5
(2012年)
一貫性を確保する。一貫性は必要であればトレーサビリティを確立し、維持することにより裏付けられる。
Automotive SPICE V3.0
(2015年)
双方向トレーサビリティを確立する。一貫性を確保する。一貫性は双方向トレーサビリティによって裏付けられる。(双方向トレーサビリティと一貫性はそれぞれ異なる基本プラクティスで言及されている)
Automotive SPICE V3.1
(2017年)
双方向トレーサビリティを確立する。一貫性を確保する。一貫性は双方向トレーサビリティによって裏付けられる。(双方向トレーサビリティと一貫性はそれぞれ異なる基本プラクティスで言及されている)
また、Automotive SPICE V3.0以降では、双方向トレーサビリティの確立に関する基本プラクティスと一貫性の確保に関する基本プラクティスが別の基本プラクティスとして再定義され、同時に双方向トレーサビリティだけを必要とする箇所と、一貫性と双方向トレーサビリティの両方を必要とする箇所を明確に区別した。

ここで改めて双方向トレーサビリティを確立することと、一貫性を確保することの意味を確認していきたい。

双方向トレーサビリティが確立された状態では、上位から下位、下位から上位に継承先が存在していることが保証される。一方の一貫性が確保された状態では、上位から下位へ正しく継承されていることが保証される。

それでは、どのような状況においてこれらが必要とされるのであろうか。

まず、一貫性の確保が必要となるケースを確認していきたい。たとえば設計要素からテスト仕様、テストケースを作成するという活動において、テスト仕様、テストケースは、設計要素に基づいて、人が考えて作り出すという行為が発生する。この場合、人の考えの正しさを保証する必要があるため、単に継承先が存在しているかどうかということだけではなく、上位の設計要素を下位のテスト仕様、テストケースが正しく継承していることを保証する必要があり、一貫性の確保が必要となる。

一方の双方向トレーサビリティの確立のみが必要となるケースは、たとえばテストケースとそれを実行した際のテスト結果との間の関係性が該当する。一般的にテスト結果は、人が考えて作り出す行為を伴わず、テストケースに従っただけという行為となるため、一貫性の確保(人の考えの正しさに対する保証)までは求めず、継承先が存在していることを示す双方向トレーサビリティの確立のみが必要となる。

このように、Automotive SPICE V3.0以降では双方向トレーサビリティの確立と一貫性の確保を目的に合わせて使い分けることとなったのである。